充実を消費するZ世代

私はZ世代の犠牲者の一人として，今日もまたぎこちなく17歳を振る舞い，ひと時をデータの荒波に飲まれながら浪費している。私たち高校生はしばしば，世間からデジタルネイティブと呼ばれる。これは私たちの日常的な振る舞いや価値観が，以前の「Y世代」との二項対立の構図に埋め込まれ，Y世代と比較して「生まれた時点で周囲にデジタル環境が存在し，日常にITが浸透している。ネット利用が当たり前でデジタルの取り扱いが上手。」と想定されるためだろう。しかし私はこの言説に対して，強い嫌悪感を感じる。企業の顧客分析では「Z世代はデジタルネイティブ」と簡単に片づけられることが多いが，ネイティブなのはあくまでも「消費すること」に関してであり，リテラシーも技術的背景の理解も皆無だと思う。ただただ，自分にとって都合の良い情報を鵜呑みにして，自分が満足できる情報を手に入れることに特化しているに過ぎない。やはり批判的思考というものは，デジタルの世界に放し飼いしておけば身につくようなものではなく，きちんと教育によって体得しなければならないと，高校生としてつくずく感じる。また同時に，Z世代は「多様性や個性を尊重し，自己表現に積極的だ」と言われる。しかし私は，実際のところ多くの人は多様性という言葉にとてもうんざりしていると思う。例えば持続可能な開発目標ーいわゆる「SDGs」が小中高の教育現場に取り入れられているためなのか，大人たちは「Z世代多様性に寛容で，視野が広くSDGsまで考えている」と声を揃えて主張するが，SDGsに不信感や嫌悪感を抱いている人も少なくはないのではないかと，まさにその授業を受けている一人として体感している。多くの人は，世界を変えたいだとか，環境問題を改善したいという献身的なことを本気で思っているというよりも，そのように振る舞うと大人に高く評価されるから雰囲気だけ真似してるに過ぎないだろう。SDGsは詐欺だ。それ自体は本質的には詐欺ではないが，企業や組織が介入した段階でそれは「他国や投資家など組織外の人々に対する宣伝材料」という予算の上で動かされ，もはや形式のあらかじめ決まった公式に当てはめるだけの簡単な作業に変わる。そもそもSDGsとして採択された議案の正式な名称(*)を言える日本人は全く居ないだろうし，SDGsの前身である2001年からのミレニアム開発目標(MDGs)との差異を説明できる人は少なければ，国連が毎年発行するSDGsの進捗状況に関する「持続可能な開発目標報告書」を読んだことのある人もごく僅かだろう。また自己表現に積極的なのは，ストレスを抱えやすい社会であることの現れだとも言える。もしかすると今の中高生はやたらと忙しいことにアイデンティティを見出していて，いわば忙しいと自慢することに多忙なのかもしれない。画面越しにいくらでも優秀な人を知れるからこそ，劣等感から目を逸らし，自己を騙す手段として充実を消費している。2倍速再生，寝てない自慢は "無駄を嫌い効率を重視するZ世代の特性" なのか，それとも "現代人の病" なのか。充実を消費するために私たちが支払っているものは，自己の内部から生きがいを生み出せない退屈な時間なのかもしれない。 *SDGsとして採択された議案の正式名称は "Transforming Our World：2030 Agenda for Sustainable Development"