序章

Torネットワーク上のホストには，それぞれユニークな「.onion」で終わる56文字のOnionアドレスが割り当てられます。例えば，このブログのOnionミラーは以下ののURLからアクセスできます。 http://note.activetkqz22r3lvvvqeos5qnbrwfwzjajlaljbrqmybsooxjpkccpid.onion/ このOnionアドレスは通常ランダムに自動生成されるものですが，あくまでもローカルの端末上で生成されるものであるため，アルゴリズムを模倣して自力で作れます。さらに，大量のアドレスを総当たりで生成することで，「好きな文字列から始まる」ようなOnionアドレスを探すようなこともできます。本記事では，そのための専用ツール「mkp224o」の利用方法を解説します。

ビルド方法

mkp224oのリポジトリを複製して，makeでビルドします。 Windowsの場合，WSL(Windows Subsystem for Linux)を利用してください。 ```Bash sudo apt install gcc libc6-dev libsodium-dev make autoconf git clone https://github.com/cathugger/mkp224o cd mkp224o ./autogen.sh ./configure make ```
ビルドが終了したら，以下のコマンドで実際に総当たりを開始できます。 ```Bash ./mkp224o {好きな文字列} -t {スレッド数} -v -s -d ./logs/ ```
なお，ひとまずは実験として短い文字列で試してみることを推奨します。

NOTE

いくつかビルド最適化のオプションがありますが，僅差であるため原則不要です。
またプレフィックス長が1文字伸びるにつれて，難易度は32倍になります。

実際に探してみる

手元には i9 12900K しかないので，ひとまず適当に AMD EPYC 9754 を二つ搭載した256コア・512スレッドのクラスタを用意してみました。\\$6/hrくらい。

早速ですが，mkp224oを導入して実行してみます。なお，スレッド数に「0」を指定すると自動的にCPUのスレッド数が選択されます。 ```Bash $ ./mkp224o hogehoge fugafuga -v -s -t 0 -d ./logs/ set workdir: ./logs/ sorting filters... done. filters: hogehoge fugafuga in total, 2 filters using 512 threads >calc/sec:3600282143.249643, succ/sec:0.000000, rest/sec:5115.345036, elapsed:0.100091sec >calc/sec:982676352.061850, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:10.108287sec >calc/sec:982754173.921653, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:20.116920sec >calc/sec:983314632.471719, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:30.125728sec >calc/sec:983299215.665939, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:40.134091sec >calc/sec:983839739.755898, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:50.151148sec >calc/sec:983680851.601694, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:60.159207sec >calc/sec:983875066.659432, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:70.167168sec >calc/sec:984076349.558707, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:80.175032sec >calc/sec:983487431.812257, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:90.182879sec >calc/sec:982729545.881699, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:100.190998sec >calc/sec:982829289.388073, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:110.198964sec >calc/sec:984408004.947785, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:120.107236sec >calc/sec:983042389.630400, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:130.117420sec >calc/sec:982408838.493967, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:140.126365sec ```
あとはこんな感じにアドレスが発見されるまで待機します。手元の環境では，8文字のプレフィックス長を発見するのに5分弱かかりました。 ```Bash >calc/sec:986398587.617392, succ/sec:0.000000, rest/sec:0.000000, elapsed:280.116126sec activekt7zenbbbk4utf4i7dexen7gw5tiironxmc4qaj2kyij4qd.onion >calc/sec:981868051.228052, succ/sec:0.099914, rest/sec:0.099914, elapsed:290.124783sec ```
なお，calc/secから平均発見時間を求める計算機を置いておきます。

calc/sec

手元のクラスターだと毎秒約10億回(972M keys/s)の試行ができるようです。8文字で20分弱，9文字で10時間程度かかるので，この辺が事実上の限界になりそうですね。ちなみに，生成されたドメインの秘密鍵と公開鍵は「mkp224o」の「log」ディレクトリ内部にフォルダーとして配置されます。これを， `/var/lib/tor/hidden_service/` にリネームしてTorを再起動すれば反映されます。

注意

必要以上にパーミッションが高いとエラーになります。chmodで適度に調節してください。

オマケ: アドレス生成のアルゴリズムについて

アドレスの仕組みについては公式に解説がありますが，ここでは簡単に説明します。まず，Onionアドレスは基本的に次のような形式になっています。 ```MarkDown onionaddress = base32(PUBKEY | CHECKSUM | VERSION) + ".onion" ```
ここで，PUBKEYはed25519暗号の公開鍵の32 bytes，VERSIONは現在0x03です。また，CHECKSUMは固定の文字列(本当にそのままの意味で".onion checksum")です。 base32はRFC 4648で既定されている特定のアルファベット(a-z/2-7)を用いてバイナリを符号化するもので，仕様上 0,1,8,9 は使用されません。 mkp224oでは，楕円曲線の点加算操作を用いてスレッドごとに候補となる鍵を大量に生成し，得られたアドレスの先頭がフィルタに一致するかを検証しています。なお現在GPUによる置き換えも一部では進められているようですが，曲線の演算(特に多倍長整数の加減乗)がボトルネックとなっており，今のところはやはりCPUによる実装が主流となっているようです。

好きな文字列から始まるOnionアドレスを取得してみる【mkp224o】